『本因坊戦が始まった!けどこれってどんな棋戦?』
『本因坊戦の挑戦者ってどうやって決まるの?』
『「本因坊」ってそもそも何?』
このような疑問に答えます。
本因坊戦とは?特徴3つ
「本因坊(ほんいんぼう)戦」とは現在の7つある囲碁の主要タイトル戦のうちの一つです。タイトル名に特徴がありますね。
毎日新聞社がスポンサーであり、優勝賞金は2800万円。 棋聖、名人に次ぐ序列3位のタイトルとなっています。
同じようにリーグ戦を経てタイトル挑戦者が決まる棋戦は名人戦、棋聖戦(ちょっと変則)がありますが、本因坊戦ならではの特徴があり、本記事では以下の3つの特徴について説明していきます。
- 安土桃山時代から続く称号。最古のタイトル戦。
- 優勝賞金2800万円。2年かけてタイトルを決定する。
- タイトル保持者は「号」を名乗ることもあり、永世称号をもつ棋士も。
本因坊戦の特徴①安土桃山時代から続く称号
タイトル名にもなっている「本因坊」ですが、これは元々「本因坊家」という囲碁の家元(いえもと:武道や芸事などを家伝として継承している家系)の一つでした。
家元としての本因坊家
現在は囲碁において家元制度はありませんが、当時は本因坊家の他に林家、井上家、安井家の4つの家元が存在し、覇権を争っていたそうです。
一世本因坊は本因坊算砂(さんさ)。織田信長の「そちはまことの名人なり」と言われて「名人」という言葉の由来とされた人だそうです。その後も秀吉、家康の前で囲碁や将棋を披露し、それによって武士のように俸禄(給料)を貰っていたそうです。最古のプロ棋士と言えると思います。
その後も本因坊家として囲碁の技術を伝承していきます。
「碁聖」としてプロアマ問わず人気の本因坊道策(どうさく)は四世、ヒカルの碁の読者におなじみの本因坊秀策は「十四世跡目(あとめ、後継者のこと)」です。秀策は十五世として本因坊家を継ぐ前に亡くなっています。
昭和の時代に世襲が終わる
最後の世襲本因坊である二十一世本因坊秀哉(しゅうさい)は、引退時に世襲性をやめて実力によって本因坊の冠を競うことを決断しました。同じ理由で将棋の方でも実力性の名人戦が始まっています。
第一期の実力本因坊(1941年)は関山利一(せきやまりいち)。現在(2020年2月現在)は本因坊文裕(もんゆう)に挑戦するための第76期の挑戦者決定リーグ戦が行われています。
本因坊戦の特徴②2年かけてタイトルを決定する。
本因坊の称号を得るためにはどうすればいいのでしょうか?
タイトル獲得までの道のりは以下のようになります。
- プロ棋士になる
- 予選Cを突破する
- 予選Bを突破する
- 予選Aを突破する
- 最終予選を突破する
- リーグ戦を勝ち抜く
- 挑戦手合いで4勝する
順に解説していきます。
タイトルまでの期間を想像していただくために、2020年4月にプロ入りしたと仮定して77期のタイトル挑戦までのスケジュールを記載します。
1、プロ棋士になる(2022年4月)
本因坊のタイトルを手にするには、日本棋院、関西棋院に所属する日本のプロ棋士である必要があります。この時点で普通の人にはほぼ無理ですね。
「いや、プロ棋士のタイトル戦なんだから当然でしょう」と思ったそこのあなた。実はプロ棋士でなくともタイトルに挑戦できる道が開けている棋戦もあることはあります。後日紹介予定。
2、予選Cを突破する(2020年9月~2021年1月ごろ)
予選Cは本因坊のタイトルへの第一歩となります。2人、あるいは3人で行われる勝ち抜き戦です。
3、予選Bを突破する
予選Cを勝ち抜いた棋士、および予選Bから参加のシード棋士による同じく勝ち抜き戦です。抽選は予選Cと併せて行われます。
予選B・Cを合わせたブロックが東京で34、関西・中部で14あります。名前が分かれているのは手合い料の違い?それぞれのブロックに2~6名の棋士が抽選によって振り分けられ枠抜けを競います。
4、予選Aを突破する(2021年2月~2021年5月ごろ)
予選B・Cのブロックを突破した棋士と、予選Aから参戦のシード棋士によって争われます。4~5人によるトーナメントブロックが東京で17、関西・中部で7つあり、各ブロック1名が最終予選に進みます。
5、最終予選を突破する(2021年6月~2021年8月ごろ)
予選Aを勝ち抜いた24名と、最終予選から参加のシード棋士、前期のリーグより陥落した4名を加えた32名を4つのトーナメントに分けて最終予選を行います。
勝ち抜いた4名の棋士はリーグ入りです。
ちなみに、本因坊リーグ入りした時点で飛びつけ七段となります。
昨年だと横塚力三段がリーグ入りを決め七段に昇段しました。
ここまで一つも負けることは許されず、10勝近くする必要があります。当然と言えば当然ですが、相手もことごとくプロ棋士。長く厳しい道のりですね。
6、リーグ戦を勝ち抜く(2021年10月~2022年4月ごろ)
ここから始まるのは、現在400名ほどいる棋士から選ばれし精鋭による総当たり戦です。
リーグは8名の棋士により構成されます。
その内訳は「前期挑戦手合い敗退者(序列1位)」「前期リーグ序列2~4位(序列2~4位)」「最終予選の勝者4名(序列5位)」です。
リーグ対局は月に1回行われるため、実に7か月にわたる長い戦いが行われます。
特に最終戦は重要です。リーグへの残留や陥落、挑戦者やプレーオフの有無などが決定する重要な対局であり、3月下旬や4月上旬の同一日に一斉に対局が行われます。
その後同率で並んだ棋士によるプレーオフや残留決定戦などが4月上旬~下旬にかけて行われ、リーグ内での最終的な序列を決定します。
毎年8人のうち4人が入れ替わるので、残留を続けるだけでも大変です。
7、挑戦手合いで4勝する(2022年5月~2022年7月)
リーグを勝ち抜くと、いよいよタイトルをかけて前期本因坊との7番勝負です。
およそ2か月半の間、全国各地の旅館、ホテル、文化会館などを会場に対局を行います。各地で対局前日には対局室の検分(碁盤や碁石、空調など対局の環境に問題がないかなどを対局者が立ち合い者とともに確認すること)が行われ、夜には前夜祭が行われます。
ここで4勝すると本因坊のタイトルを手にすることが出来ます。
2年かけて争うタイトル
入段(プロ入り)から数えて最速で2年と3か月ほど。もちろん棋戦は他にもたくさんあり、それぞれの対局が入り乱れて組まれていきます。
とても長くて先が見えません。。。
棋士のみなさんたちは、どれぐらいからタイトルを見据えるのでしょうか。
実際はあまりに道程が長いので、予選BCを突破する、予選Aを突破する、など枠抜けを目標に1局を打っているのかも知れませんね。
本因坊戦の特徴③タイトル保持者は「号」を名乗ることもあり、永世称号をもつ棋士もいる
現在の本因坊を冠するのは井山裕太九段。
本因坊戦においては、「本因坊文裕(もんゆう)」と呼ばれます。
これは実力本因坊制となって、本因坊の名跡を継承したという趣旨で号を名乗っていることに由来しています。
初期は日本棋院より号を贈られていたそうですが、現在は名乗る、名乗らないも自由で、その号も自分で自由に決めて良いそうです。
主な棋士と号の組み合わせは以下のようになります。
- 井山裕太九段⇒文裕(もんゆう)5連覇でなのる
- 山下敬吾九段⇒道吾(どうわ)
- 高尾紳路九段⇒秀紳(しゅうしん)3連覇で名乗る
- 趙治勲名誉名人⇒治勲(ちくん)本名
- 武宮正樹九段⇒正樹(せいじゅ)、後に秀樹(しゅうじゅ)
- 張栩九段、羽根直樹九段⇒名乗らず
基本的には本因坊のタイトルを有している期間のみ号を名乗ります。
しかし例外として、「5連覇をして60歳を過ぎた時点で無冠」、あるいは「10連覇した後で無冠」の場合は永世本因坊として号を名乗り続けることが出来ます。
私が囲碁を始めた約10年前、「25世本因坊治勲」という響きがとてもカッコよく感じました。調べると過去に10連覇しており、名誉称号を名乗っておられるのだと。
それ以来ずっと25世本因坊治勲先生だったのですが、先生が60歳になられて「趙治勲名誉名人」となりました。
勿論悪くはないし、名誉名人なんて凄すぎるんだけど、○○世の方がカッコよかったなぁ、なんて思ったことは秘密です。
囲碁も将棋みたいに永世名人にすればよかったのに、というのは個人の感想です。
本因坊戦の楽しみ方
2020年2月現在、8連覇中の本因坊文裕(もんゆう)への挑戦権を懸けて75期のリーグ戦が繰り広げられています。
星取表を見ると一力八段、芝野名人、許八段が並んでいます。若い棋士たちの争いとなっていて非常に頼もしいです。
3月は一力八段と許八段の直接対決。お互いに星を落とさなければどちらかと芝野名人によるプレーオフとなる可能性が高そうです。
3月から4月にかけての挑戦者決定までの対局からも目が離せません。
また、この3人の誰が勝ち上がっても井山さんとタイトルを争って勝ったことがある若手棋士であり、「井山vs令和を担う次世代棋士」の戦いは必見です。
5月からの挑戦手合いにしか注目しないのは勿体ない!佳境を迎えたリーグ戦から是非楽しみましょう!